悩まない男

18禁へ突入……しかしかけらも色気なし"o(-_-;*) ウゥム…困りました。

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作品解説

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ここはわたし〈7月〉が管理する自作BL小説ブログです。
現在はBLをたっぷり含んだファンタジー【スレートグレイ】を更新中です。
なお作品の著作権はすべて、管理人である7月にあります。
無断転載や転用は固く禁じます。

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【ファンタジー】

【スレートグレイ・シリーズ】 65話目(更新中)
(ひとつの物語をいくつもの中短篇で構成しています) 

闇色の総髪、黒曜石の瞳をいだくグレナーデン王が何百年もむかしにかつて治めていた「スレートグレイ」という地方を舞台とした短篇集です。

「ドラゴンの卵」(前スレートグレイ) 全6話(完結)
スレートグレイ「逃亡」および「森」に出てくる警備兵と魔法使いの原形となったふたりの話であり、2008年春頃ヤフーブログで更新していた短篇です。

これらの作品の詳しい設定についてはこちらから。
スレートグレイ・シリーズ設定集/概要篇へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/キャラクタ篇へ
イメージイラスト(頂きもの)

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【長篇・中篇】

「海」 全44話(完結)
うだるような猛暑のなか、わたしの経営するちいさな居酒屋にふらりとあらわれた痩身の男。
わたしとこの男、そして居酒屋の常連である赤毛の商人との不可思議な循環……
SF的ファンタジーであり、ネタがネタだけに内容はまさに伏線の嵐となります。

「ベール」 全18話(完結)
アパレルデザイナーの卵である折金姉の制作したウェディングドレスまがいの代物を、折金は恋人の下篠に「着てみてくれないか」と手渡す。
ともに人目をひく美形なのに少々変態がはいったふたりの恋人同士の話。
改造ブラジャーを着用するのに四苦八苦してみたりドレスを着て自慰をしてみたりと、プチ変態ぶりを展開する。

「周ちゃんと尚ちゃん」 全84話(完結)
ちらかり放題の尚一の部屋でAVを観ていたふたりだが、尚一は友人の周二にむかってじつにあっけらかんと「セックスしない?」と持ちかける。
臆病で傷つくのを畏れる卑怯者の周二と、美貌で人懐こくほしいものに対しては躊躇しない尚一のふたり。
性格のまるで食い違うふたりの人間の葛藤。

「天使・改」 第17話(現在休止中)
似合わないと自覚しながらも塾の講師として糊口を凌ぐ槻田裕資。
かれにはみずからを討ち滅ぼしてしまいたい暗い衝動がある。
裕資をシニカルに見つめる高校教諭の嘉数通と、裕資に偏った情熱をいだく佐川という中年男がともにもつれて話がすすんでいく。

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【短篇】カテゴリ 

「生き霊」 全2話(完結)
義理の息子と共寝する父親。
ふたりのはげしい情交場面を漂いつつながめやる生き霊の正体。

「告白」 全2話(完結)
毎日昼時になると「好きです」と告げにくる時報男。
フライヤー(チラシ)校了にこぎつけるまでの会社内での馬鹿馬鹿しい一騒動。

「乳首記念日」 全3話(完結)
わがままで変態な会社の先輩とそれにつきあう美形の後輩。
ムードのかけらもないが惹かれ合っているふたり。
ただし死んだってそんなことは口にしない。
大好きなシリーズ作品(「ひとよひとよにひとみごろ」)の二次小説として書かせていただきました。

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【掌篇】カテゴリ

7月の萌えどころ満載のこのカテゴリ。
自分的ネタの倉庫でもあり、ここから中編、長編に展開させようと思っている話はいくつもあります。

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【コラボ小説】カテゴリ

「同じ登場人物、同じ設定にもとづいて」それぞれ同日に短編をアップするという企画です。
同設定であってもどれだけ書き手によって色合いがちがうか個性がちがうか、ということを楽しむのを眼目としています。

「秘密」 全3話(完結)
2年ものあいだ直属上司の高家達のことを良介はせつなく慕い焦がれてきた。
この高家が男あいてに愁嘆場を演ずるといった光景に、良介はある夜偶然にも出くわしてしまう。
浴びるほど酒を飲ませ、良介は高家の自宅へと上がり込む……

「友達とか恋人とか関係なく」 全3話(完結)
「ぼくのまえできみたちふたりの絡みを見せてもらったら家賃滞納はチャラにしてやる」
まさに呆れるしかないような提案を大家からもちだされた文太と瑠梨。
大家の新道には確認したいあるひとつのことがあったためにこの話をもちかけたのだった……

「異」 全4話(完結)
ひとのからだに貼りつけられた札を好物とする「異」。
恋人と別れからだをもてあます幾は変化たるこの「異」を街でひろい、同衾にいたるが、かれは自身に「札」が貼られているとは知るよしもなかった。

「喋る男」 全1話(完結)
口からさきに生まれたようなお喋り男の口を封じ、「どれだけきみを愛してるか知ってるか?」と告げる美貌の青年。
これらの登場人物には元来元ネタとなるふたりの芸能人がいました。

「For You」 全2話(完結)
才能をやっかまれたふたりのストリートミュージシャンが同業者の青年たちに理不尽なレイプをされてしまう。
男たちにはげしく強姦されながら青年の考えつづけるただひとつこと。

「くちづけ」 全3話(完結)
「キス」の概念を忘れてしまった青年。
そのことでひどく懊悩しつつ恋人と交わった結果は……
これはわたしがはじめて設定を提示したときのもので、発表日時をほんとにわくわくして待ちました。

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【リレー小説】カテゴリ

ひとつの小説を複数でリレーしながら書きつづっていく企画。

「lie,lie,lie」 全4話(完結)
恋する「彼女」が男性だった。
しかも年齢もサバを読まれていた。
しかも、「俺たち」つきあわないかと迫られた。
しかもしかも、まだ打ち明けなければならないことがあるという……

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【真ちゃんしょーご】カテゴリ

りずむさん作『一緒にいたっていいじゃんか!』にはじまる、真一と省吾、および優太の登場する一連のシリーズ小説があります。
作者のお許しを得てカテゴリを作り二次小説を書かせていただいています。

「にゃー」 全58話(完結)
にゃーというひとりの仔猫からみた飼い主の恋模様。
ずっと省吾に恋していた知花鼎と風間優太とのあらたな恋のはじまりまで。

「犬猿の仲」 全3話(完結)
関西人だという真一のいとこ。
真一とこのいとこがうりふたつなことを知った省吾の放った台詞は……

「留まる男」 全3話(完結)
「おまえの寝顔はきらいなんだおれは」といいはなつ真一と、ちらつく深い過去をいだく省吾のひと夜。
けして甘ったるい愛のことばを取り交わさないふたりの恋人同士。

「名前」 全42話(完結)
死の象徴たる黒い扉からのがれようとする省吾と、真一と省吾を永遠に見ていたいと願う優太との奇妙な情交。

りずむさんのブログへ
愛があればBLだって ―純愛主義者の妄想のかたまり―

| 作品解説 | 2020-01-01 | comments(-) | TOP↑

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森 28(スレートグレイ 10)(18禁)

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(きみに触る)つぶやいて、まとっていた木賊色の衣を無造作に床に脱ぎすて寝台のうえにのしかかった。
ながい手脚を力なく投げだしたまま、まぢかにせまる鋭角的な男の顔を鶸茶はじっと見上げていた。
(触る?……)じつに不思議そうにぽつんと口にする。
(きみの記憶に触れるんだ。そのためにきみのなかに入る。
精神を高揚させ、うきあがったところを掌でつかむ。
まあじっさいにはわたしの手はなにをもつかむわけでもないんだが)ちいさく裏葉は笑い、
(わたし自身の指がじっさいに屈曲してなにを握るわけでもない。
しかし感覚としてはまさにそういう感じだ。
きみの精神のかたまりにひとたび触れてしまいさえすれば、そこでめでたく道ができる。
精神にふれるための暗証番号をもらったようなものだ。
そのあとはもう自在にきみの記憶の抽斗を開けることができる。
いまにもきみ自身を食い荒らそうとしている、二藍と、その情人たる不徳の男の記憶を吸い寄せてこちらに、)
(二藍のことを忘れるのはいやだ)きしんだ声で鶸茶はさえぎった。
そうだなとさびれた声音でいい、やがて鶸茶の膝裏をすくいあげると胸につくほど深々と折りまげさせ、裏葉を受け容れる体勢をとらせた。
それが苦しいのか、顔を歪め、筋を凍らせる。
息を吐くんだとささやき、平らかな腹と折りまげられた大腿の内側をしずかに撫でさすってやると、がちがちになっていた強ばりがほんの少しばかり解ける、そのあわいを縫い裏葉はみずからをぐっと侵入させた。


とば口にとうぜんのようにきつい抵抗があったがやや強引に腰をおしすすめると、横たわった男のからだにびくんと痙攣がはしる。
侵入された男も苦しかったろうが、陽物をぎりぎり締めつけられ押し返される裏葉にもひどい苦痛を強いられた。
胸をふるわせ、またひとこと(息を吐いて)とみじかくくり返す。
それが耳朶にとどいているのか否か、暗い扉をついて押し入ってくる裏葉の檻じみた腕にかける力がそれでもまだ残っている。
(わ……すれ……)とぎれとぎれに放った男の掠れたことばを裏葉は拾い集める。
それを組み立てるまでもない、この男がなにをくり返そうとしたかもう諒承していたから、瞬刻交睫しふたたび睫をあげたと同時にいっそう下肢をおしすすめた。
組み伏せられたからだがまた痙攣して跳ね上がりかけたが、力をこめることができなくてがくりと寝台のなかに沈みこんでしまう。
さぐりながらねじりこまれていく硬く漲った裏葉自身をそれでも満腔で受け容れながら、いやだと鶸茶はつぶやきつづけた。
忘れるのはいやだ、二藍のことならひとつだって忘れるのはいやだと詮なくくり返した。
忘れるのはいやだ、忘れたくないと、内壁をなぞられしたたか押しあげられ、怖ろしいほどの高みにぐんぐん引っぱり上げられていきながら、なおこの交接を厭うてあがいた。


この男が自分のからだのしたで悦楽と二藍との思慕とでぐちゃぐちゃに混乱しているさまは、ぞくぞくするような愉悦を裏葉の身内に巻き起こした。
いちど、繋がりがほとんどはずれるぎりぎりまで腰をひき、ことさらに時間をかけてゆるゆると捻り込み直し、奥までとどかせた。
ああ! とうめいて弓なりに背が反りかえる、と同時に肉叢がいっきに収斂し、裏葉のからだもひといきに持っていかれそうになった。
苦労してやっとひとつ吐息をのがし、裏葉のものをこうまで深々と受け容れさせられている男の震えるからだを見おろした。
忘れたくないとはその唇はもうつぶやいてはいなかった。
人生のうちであらかた口の端にのせるだろうことばをいまこのときにすっかり吐き出してしまったから、もはやいう必要もないのだろう。
痛苦ばかりの身を抉るようなこの訴えを、だが裏葉はこれ以上耳にしたくないと思う一方で、なんとも心地よい音律としていつまでも聞き入っていたいとも思った。


いやがる男の記憶に帳をかけようなどといった、この男が正気にもどったら叩き殺されかねないような行為であるとじゅうじゅう承知していながら、忘れさせないでくれとくり返す単純な構文が誘いの、悦楽の、睦言以外のなにものでもないように甘く響き、裏葉の下腿をぐらぐら揺さぶり、おろかにも膨れあがらせる。
なぜこんなに興奮するんだと瞼をおとし、また上げる。
名をささやいたら苦しげなおもざしのうちにぱちりと目をあけた、ゆがんだ眉宇のしたの鈍色の両眼があどけないこどものようにうつり、せつなく、また怖ろしく凶暴な気持にもなった。
なぜこんなに興奮するんだ、なぜこんな狂喜と苦痛がないまぜになった感情に呑吐されなければならないんだと思った。

(「森 29」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-24 | comments(-) | TOP↑

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森 27(スレートグレイ 10)(15禁)

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脚をあげてと裏葉がささやく、スチールグレイの薄闇をこめかみにまとったなり茫乎として鶸茶はそれを耳朶におさめるだけだ。
どうしてとまたもいかつい大男は訊いた、もはや意味の付与されない問訊だったから術者はかすかにかぶりをふっただけだった。
かつて3度、記憶の制御というこの到底おおっぴらにできぬ異端の技を女性と男性、および少年にたいしておこなったことがある。
むろん仕事のうえでのことだったし愛情はもちあわせない、からだだけは昂揚させ繋ぎあわせることはできたがこころにいたっては気味の悪いほどしんと冷えたもので、いくら依頼ごととはいい条けして気分のいいものではなかった。
施行したのちもながらく嫌悪感にさいなまれた。
うちひとりはまだ15にも充たぬいとけない少年だったのだから、どういいつくろうがかれのしたことは褒められたことではなかっただろう。


そも術者と呼ばれるものが他人と情を結ぶことは禁忌とされてきた。
他と精をわけあたえあったりすれば力を喪う、これはずいぶんとむかしから登用されてきた術者を統制するための案配のいい縛りだったが、この題目を遵守するものなど竜が跋扈していた古の時代ならいざしらず、いまではほとんど効力をなくす。
ただこの縛りは真実をもたぶんにふくむ、性という圧倒的な煉獄たる扉を右手に、冷徹な鋼の精神力を水先案内とする技を左手に、並び立たせてうまいこと為果せようとするは凡骨にはさてもしんどかろう。
裏葉にはところがそれが可能だった。そのことがかれを心底うんざりさせた。
術を施行したあいてに同情心をいだくこと少なく、からだを開かせ交情し、触れ落ち滴った精神をつかみとる、みずからが技をつかったことに嫌悪はしても、そのことで記憶の一部をはらりと欠落、欠損させられた当のあいてにたいして憐憫の情がほとんど湧かない自分という男は、ぜんたいどれだけ酷薄なのかと吐き気をもよおすことしきりだった。
正誤ははさておきおぼえていなくてもよかろう記憶、もしくはおぼえていれば弊害をもたらすだろう記憶、そんなものをかかえ術者のもとをひとりで、または親しいものに連れられて蹌踉とおとなった依頼者たちだった。
薬師とはいつの時代でもかれらのおもてむきの看板だ。
こんなことを玩弄するのだ、魔女や悪魔の使い手と見なされ畏怖され忌むものとされてとうぜんだった。


みながみな、裏葉がしたようなこの手だてを選択するというわけでもなく、使いたくても使えない術者というものも多数いて、滑稽なことにかれらはそれだからこそ清廉潔白の徒と呼ばれた。
みずからのこころを完全に統御できなければおこなえない技を、したくてもできない矮小な凡骨のくせに、それをやすやすおこなう裏葉のような技者を邪道だ、異端と口をきわめて痛罵した。
つまりは強大な力あるものにたいする嫉妬以外のなにものでもなかったのだが、当たるとも遠からずとも思ったから裏葉は好きに囀らせておいた。
だれにどんなことを悪しざまにいわれようがいっこう痛痒を感じない傲岸さだったが、ただひとり、まだこのときはみぢかにいた師たる真朱の目顔だけが怖かった。
あの記憶の制御をおこなったことは真朱にはかけらも言明しなかったがむろん気づいただろう、自分の弟子がなにをしたのかはわかったはずだった。
自分の保護者であり師でもありこのときはまだ唯一の愛する人間だった真朱に、それを知られるのが怖ろしかった。
かれがそんな人間でないと承知してはいても、自分のしていることが道理にはずれ公言にもとるような技だと糾弾されるのを畏れ、三度が三度とも裏葉は依頼者たちを真朱の家からちいさな谷をひとつへだてた濃紫の森のきわまでつれていって、そこで技を掛けた。
依頼者たちはなにがなんだかわからぬままにわざわざ森のとばくちまで連れだされ、そこで交わったのだ。
真朱はなにもいわない。
やさしいこの年長の男はこのことについてひとつも口にしない。
それがつらかったが、だからこそ裏葉はこの保護者をさらにふかく愛した。


真朱、と裏葉はいま胸のうちでつぶやく、わたしはまたこの技を掛けようとしているんだ、これまでの三度の技同様、やはりこれも他から強要されて行使する。
二藍のこの家に呼ばれたときからわたしは二藍にさからう生き物ではないので、彼女に命じられれば理屈などはいっさい介入し得ない、そんなことを下されたことはこれまでなかったが殺せといわれれば殺したし寝ろといわれればだれとでも寝ただろう。
ところが真朱、こんな茶番がいったいあるだろうか、わたしはこの鶸茶という男の記憶を制御しろと命ぜられた。
鶸茶のことをわたしがどう考えているか二藍が知らぬとも思えなかったが、わたしにはあの少女にはとうてい歯が立たない、いまわたしのからだのしたで横たわるのは鶸茶という警備兵だ、命ぜられたからだ。
まず闇の眷属に相違ない二藍の情人にいましも頑是ない息を摘まれ、二藍と交わろうとしたそのささやかな記憶が遠くない将来かれの生を留めるだろう男だ。
いったいこれはどんな茶番なんだ、真朱?

(「森 28」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-22 | comments(-) | TOP↑

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森 26(スレートグレイ 10)

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忘れるんだよと裏葉は、
(忘れるんだ。あの背のたかい男のことも、二藍のことも、みんな)
二藍を得ようと血を吐くほど望んであがいて懊悩して、いましも情を通じようとしたことも?
二藍のいとけない胸のふくらみも華奢な大腿もその奥に息づくしめった陰も。
いや、といって反らした白い半身も。
鶸茶の名をいくども呼んでくれたことすらも。
鶸茶はちいさく首をふる、(忘れるのはいやだ)
(忘れなければきみが死ぬんだといった。なんどもいわせないでくれ)
おれにさわるなと、ゆらぐ薄闇のなか、まるで暗礁に乗り上げた船の案配で部屋にかたむく寝台に縫いとめられた、いかつい大男は呻く、吐く、
(手をはなせ)
(そうだな)暗晦なおももちで術者はうっすら笑いを佩く、


(はなせと、きみはわたしに懇ろに請うしかできないな。
これまでわたしのことを遠目に見かけるだけでそれこそ焼けつくような、さあすぐにも悋気諍いをはじめようじゃないかといわんばかりの目角をさてもくれていたからね。
この家に、いつでもきみの目顔があった。
いつでもきみはわたしを見つけてくれた。
錯覚させるにたる目顔だった。そしてもうずっとわたしは錯覚に陥ったままだ。
いまきみが尋常な状態であれば、わたしのことなどこともなく部屋のすみまで叩き飛ばしていただろうに。
まともであったならきみに敵うものはまずひとりもいない。
きみはほんとに手におえない我が儘いっぱいの獣のようなものだ。
しかしいまは事情がちがう。あの黒の男の悪気にやられて手も足もでない。
かわいそうに、ほとんど動けないだろう。
さあ脚をひらいてと要請されれば唯々諾々とその通りにするしかない。
そしてわたしはそうするから。
きみのからだのなかに入って、奥深くまでさぐりにいってきみ自身にふれるから。
きみのなかに入るには、どうしたってふれないわけにいかないだろう?)
どうしてとは唇はいびつに歪み動きはしなかったが、鈍色にまどう瞳が色彩をつとあらたにした。
正確に裏葉はそれを読みとる。術者でなくてもそれはできる。


(死なないためにだ。
二藍がそう願ったように、わたしもまたそうつよく願うからだ)
おれは死なないともう百遍もくりかえした繰り言をまた大男は口にする。
その愚昧さ頑迷さはいっそ愛すべきものだった。
あいての額に筋張ったうすい手をかざすと裏葉は、
(記憶を制御するにはいくつか手だてがある。
術者によって手段があるだろうが、残念ながらわたしはこの方法しか知らない。
もっとも手軽だし掛り具合は強力だ。しかも邪道だ。
都合のいいことばかりではない、いまいましいというべきか、陥穽も待ちかまえている。
おそらくこれがきみに掛ってからこっち、わたしはそれこそいつこれがはずれてしまうのかヒヤヒヤし通しになるんだろう)
幼いこどものように鶸茶はおとなしく耳をかたむけている。
おそらくなにをいわれているのかよくわかっていないのだ。
なんでもかまわない。もう選択肢も躊躇する時間もなかった。


二藍という稀有の少女を目框のうらに、またざりざりする舌のうえに思い描き呼び戻すたびに狂おしい情動にかられてきた嘔気のするこの2年あまり、いつその情緒が鶸茶という大男に移行していったのか忘れた。
成就する望みのおそらく一片だにない情愛をかくもあのちいさな存在に傾けつづけるこの愚かというしかない男にたいし、いつから憧憬と情欲をいだくようになったのか忘れた。
心底莫迦者だと、不憫だと、あわれな男だと、そんな埒もない感情はとうに苦い愛情のかたちをかえた露呈だったのだろう。
裏葉に食いつきそうな悋気をぶつけ、妄執でがちがちになってなお優秀な警備兵でありつづけ、それでは、二藍が没したら?
裏葉以外にはだれもあずかり知らぬ、さほど遠くない未来に二藍がその命期をおえるときがきたなら、いったいこの愚かしい男はどうするのだろう。
棺の錠前たるために自分が二藍にわざわざ呼ばれたのだと、なにをおいてもそれを敢行するつもりでいるこの自分をいったいどう見るだろう。


これほどに二藍に執着する男であるから、二藍が没したあともすぐには家を去らないだろう。
広大にして複雑怪奇なこの家を鼠よろしくすみからすみまで這いずり回って二藍の亡骸をさがし、泣きながらか悪鬼よろしく憤怒にかられてかはわからぬがさがしにさがし、しかしてとうとう見つけられず、かわりにかれは裏葉を見いだすだろう。
きっと裏葉を問いつめにくるだろう、暴力を行使してもそうするだろう。
自分に裏葉の術が施行されているとも知らず、二藍の膚をいちどは味わいかけたはずの記憶に帳をおろされ、目隠しをされたままのこのあわれな男は「二藍をどうした」と裏葉を締め上げるのだろう。

(「森 27」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-21 | comments(-) | TOP↑

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森 25(スレートグレイ 10)(15禁)

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紙のごとき、からだを裂かれるにも似た苦痛を強いているのはだれでもない鶸茶のはずなのに、裏葉にささやきかけるその声はやさしい、甘い、欲しくて欲しくてたまらない知音にたいする喃語めかしてかすれて溶ける、ふれあっている下肢はどこからどう連絡されるものだかおそろしい興奮を確と伝えていて、とうに痛いほど強直していた。
抱きとめられ、爪を鶸茶の二の腕にぎゅっと食いこませたまま、もどる、と裏葉はつぶやいた。
ついで「来る」とポツリいい落した。
それが、ここまできてやっと鶸茶にも施与された解答だった。


さあ、もどってきたものを迎えよう。
どこまで見たかおまえは覚えているか?
そうだ、鉛色の寒々とした室内に据えられた四柱式寝台にひとり味気なくも取りのこされ、そのきわには痩躯の術者が喬木のようにたたずんでいた。
焼いた石のごとき鉄黒を目框にたたえた少女は、いくども「鶸茶が死ぬ」とくり返した。
死んでしまうと訴えた。
とりつく島もない面差しをいつでもぶら下げる孤老の少女にして、一条の痛苦をすら滲ませてそう反復したのだ。
(死なないよ)鶸茶は述懐する。
もう二藍はいってしまったがだれでもない彼女にそういって聞かせたかった。
死にはしない、ただひたすらじくじくと昏い不愉快な中熱がひかないだけだ。
二藍と情を通じればこれがおさまるかもしれないと思ったのだ。
(死ぬんだよ)ところでそう声をかけたのはそばにたたずんでいた痩躯の男だった。
(きみはグレナーデンの気にやられた。
そのぬるりとした温かい悪気はきみのなかでいまにも増殖と腐食をはじめる。
宙いっぱいに浮標し四隅にもとぐろを巻いているあれらが見えないか。
シュウシュウと音をたてて笑ってさえいるじゃないか。
きみには見えないのか、鶸茶?)
(なんのことだ)鶸茶はささやき返す、(グレナーデンとはだれだ)


瞬刻ためらいがあったが、やがて、二藍の情人だ、と答える。
(情人?)
(そうだ)
(ちがうよ)
(ちがわない。
わたしやきみがこの世に生を授かるよりはるか100年も200年もまえからの愛人だ)
自分のことばにほとほと滑稽を感じたのか、しまいにくつくつと裏葉は暗鬱な笑いを笑った。
(ちがう)頑迷に鶸茶はくり返す、ちがう。
ぎしりとひとつ音をたてて裏葉は半身を寝台にあずけ、大腿のなかでむき出しになったままの鶸茶のしおたれた陽物をやさしく撫でさすってやる。
少女のなかに入ることの許されなかった血のかたまりだった。
(きみのことを知っていた。
もっともきみのほうこそ、わたしのことをいつでも剣呑な目つきで追いすがってはいたが。
どれだけきみが愛してきたか、あのちいさな少女をかつえ求めてきたか、よく知っている。
それはわたしも同じで、息がとまるほどこうも冀求してきたのに、追いつかない、どうしたってぜったいに彼女には追いつけないんだ。
わたしは二藍の命をうけこの家に招かれたが、いかにもわたしでなければだめだといって呼ばれはしたが、それは誰憚ることなく彼女を愛することのできる許可証をわたしに授けるためではけしてなかった。
二藍がわたしを呼んだのはひとえに彼女が自分の死を予測したからだ。
幸か不幸か、わたしを上まわる力をもつ術者がこの地方にはいなかったので、ほかでもないわたしが呼ばれただけのことだ。
みずからの命の終焉を正確に察知したから、わたしを墓守にさせるために招いたんだ。
わたし自身を彼女の棺のこれ以上ない強固な錠前に起用したんだ!
彼女の命運がつきたときわたしはその棺に錠をかける。かならずそうする。
それがこの家に呼ばれたときの、まずもって違えることのできぬ第一義の約定だった)


力なく鶸茶は首をふった、もうひとつもこんな話を聞いていたくなかったのだが、肺臓につまった得体の知れぬかさつくものがじわじわと視界をおびやかしはじめてもいたからだった。
(つらいだろう)なだめる掌を休めずに裏葉は、
(きみが忘れないかぎりその苦痛はずっとつづく。
いまきみの肺いっぱいに巣くいはじめているのは、あのぬばたまの両眼をもつ男の放った気だよ。これらが、)
いいさし、さえざえとした熨斗目色の目で四囲の塵めいたわだかまりを示す、
(なにもしていないと放言してはばからなかった男の、これが無意識だろうがつまらぬその結果だ。
きみが彼女との記憶を身内にかかえているかぎりは両肺は圧されつづけ、しまいには死ぬだろう。
二藍がいったようにきみはまちがいなく死ぬんだ)

(「森 26」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-20 | comments(-) | TOP↑

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