悩まない男

グレに惑わされる莫迦な男の鶸茶。でも可愛い(笑)

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30

≫ EDIT

作品解説

---------------

ここはわたし〈7月〉が管理する自作BL小説ブログです。
現在はBLをたっぷり含んだファンタジー【スレートグレイ】を更新中です。
なお作品の著作権はすべて、管理人である7月にあります。
無断転載や転用は固く禁じます。

---------------

【ファンタジー】

【スレートグレイ・シリーズ】 52話目(更新中)
(ひとつの物語をいくつもの短篇で構成しています) 

闇色の総髪、黒曜石の瞳をいだくグレナーデン王が何百年もむかしにかつて治めていた「スレートグレイ」という地方を舞台とした短篇集です。
大好きなル・グィンの「ゲド戦記」シリーズのような雰囲気を目指せたらと思っています。

「ドラゴンの卵」(前スレートグレイ) 全6話(完結)
スレートグレイ「逃亡」および「森」に出てくる警備兵と魔法使いの原形となったふたりの話であり、2008年春頃ヤフーブログで更新していた短篇です。
いつまでたっても攻め落とされた城から逃れようとしない魔法使いと、その由を容赦なく暴こうとする警備兵。
全編ほぼ会話劇で成り立っています。

これらの作品の詳しい設定についてはこちらから。
スレートグレイ・シリーズ設定集/概要篇へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/キャラクタ篇へ
イメージイラスト(頂きもの)

---------------

【長篇・中篇】

「海」 全44話(完結)
うだるような猛暑のなか、わたしの経営するちいさな居酒屋にふらりとあらわれた痩身の男。
わたしとこの男、そして居酒屋の常連である赤毛の商人との不可思議な循環……
SF的ファンタジーであり、ネタがネタだけに内容はまさに伏線の嵐となります。

「ベール」 全18話(完結)
アパレルデザイナーの卵である折金姉の制作したウェディングドレスまがいの代物を、折金は恋人の下篠に「着てみてくれないか」と手渡す。
ともに人目をひく美形なのに少々変態がはいったふたりの恋人同士の話。
改造ブラジャーを着用するのに四苦八苦してみたりドレスを着て自慰をしてみたりと、プチ変態ぶりを展開する。

「周ちゃんと尚ちゃん」 全84話(完結)
ちらかり放題の尚一の部屋でAVを観ていたふたりだが、尚一は友人の周二にむかってじつにあっけらかんと「セックスしない?」と持ちかける。
臆病で傷つくのを畏れる卑怯者の周二と、美貌で人懐こくほしいものに対しては躊躇しない尚一のふたり。
性格のまるで食い違うふたりの人間の葛藤。

「天使・改」 第17話(現在休止中)
似合わないと自覚しながらも塾の講師として糊口を凌ぐ槻田裕資。
かれにはみずからを討ち滅ぼしてしまいたい暗い衝動がある。
裕資をシニカルに見つめる高校教諭の嘉数通と、裕資に偏った情熱をいだく佐川という中年男がともにもつれて話がすすんでいく。

---------------

【短篇】カテゴリ 

「生き霊」 全2話(完結)
義理の息子と共寝する父親。
ふたりのはげしい情交場面を漂いつつながめやる生き霊の正体。

「告白」 全2話(完結)
毎日昼時になると「好きです」と告げにくる時報男。
フライヤー(チラシ)校了にこぎつけるまでの会社内での馬鹿馬鹿しい一騒動。

「乳首記念日」 全3話(完結)
わがままで変態な会社の先輩とそれにつきあう美形の後輩。
ムードのかけらもないが惹かれ合っているふたり。
ただし死んだってそんなことは口にしない。
大好きなシリーズ作品(「ひとよひとよにひとみごろ」)の二次小説として書かせていただきました。

---------------

【掌篇】カテゴリ

7月の萌えどころ満載のこのカテゴリ。
自分的ネタの倉庫でもあり、ここから中編、長編に展開させようと思っている話はいくつもあります。

---------------

【コラボ小説】カテゴリ

「同じ登場人物、同じ設定にもとづいて」それぞれ同日に短編をアップするという企画です。
同設定であってもどれだけ書き手によって色合いがちがうか個性がちがうか、ということを楽しむのを眼目としています。

「秘密」 全3話(完結)
2年ものあいだ直属上司の高家達のことを良介はせつなく慕い焦がれてきた。
この高家が男あいてに愁嘆場を演ずるといった光景に、良介はある夜偶然にも出くわしてしまう。
浴びるほど酒を飲ませ、良介は高家の自宅へと上がり込む……

「友達とか恋人とか関係なく」 全3話(完結)
「ぼくのまえできみたちふたりの絡みを見せてもらったら家賃滞納はチャラにしてやる」
まさに呆れるしかないような提案を大家からもちだされた文太と瑠梨。
大家の新道には確認したいあるひとつのことがあったためにこの話をもちかけたのだった……

「異」 全4話(完結)
ひとのからだに貼りつけられた札を好物とする「異」。
恋人と別れからだをもてあます幾は変化たるこの「異」を街でひろい、同衾にいたるが、かれは自身に「札」が貼られているとは知るよしもなかった。

「喋る男」 全1話(完結)
口からさきに生まれたようなお喋り男の口を封じ、「どれだけきみを愛してるか知ってるか?」と告げる美貌の青年。
これらの登場人物には元来元ネタとなるふたりの芸能人がいました。

「For You」 全2話(完結)
才能をやっかまれたふたりのストリートミュージシャンが同業者の青年たちに理不尽なレイプをされてしまう。
男たちにはげしく強姦されながら青年の考えつづけるただひとつこと。

「くちづけ」 全3話(完結)
「キス」の概念を忘れてしまった青年。
そのことでひどく懊悩しつつ恋人と交わった結果は……
これはわたしがはじめて設定を提示したときのもので、発表日時をほんとにわくわくして待ちました。

---------------

【リレー小説】カテゴリ

ひとつの小説を複数でリレーしながら書きつづっていく企画。

「lie,lie,lie」 全4話(完結)
恋する「彼女」が男性だった。
しかも年齢もサバを読まれていた。
しかも、「俺たち」つきあわないかと迫られた。
しかもしかも、まだ打ち明けなければならないことがあるという……

---------------

【真ちゃんしょーご】カテゴリ

りずむさん作『一緒にいたっていいじゃんか!』にはじまる、真一と省吾、および優太の登場する一連のシリーズ小説があります。
作者のお許しを得てカテゴリを作り二次小説を書かせていただいています。

「にゃー」 全58話(完結)
にゃーというひとりの仔猫からみた飼い主の恋模様。
ずっと省吾に恋していた知花鼎と風間優太とのあらたな恋のはじまりまで。

「犬猿の仲」 全3話(完結)
関西人だという真一のいとこ。
真一とこのいとこがうりふたつなことを知った省吾の放った台詞は……

「留まる男」 全3話(完結)
「おまえの寝顔はきらいなんだおれは」といいはなつ真一と、ちらつく深い過去をいだく省吾のひと夜。
けして甘ったるい愛のことばを取り交わさないふたりの恋人同士。

「名前」 全42話(完結)
死の象徴たる黒い扉からのがれようとする省吾と、真一と省吾を永遠に見ていたいと願う優太との奇妙な情交。

りずむさんのブログへ
愛があればBLだって ―純愛主義者の妄想のかたまり―

| 作品解説 | 2020-01-01 | comments(-) | TOP↑

≫ EDIT

森 15(スレートグレイ 10)

「森」1へ
「スレートグレイ・シリーズ」第一話へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/概要篇へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/キャラクタ篇へ

--------------------------

扉は、閉てられようとしなかった。
それが意思だ。
黒の男の眷属たる悪気……いまやかの紅玉を包含しているかのごとき、ぱちんぱちんと不揃いに小爆発を起こしつつ四囲に爆ぜ散乱していく……それがこうも意思をもつ。
赤い照り返しを受けながら隅にぐるぐる陣取るさまは、なにがし異邦の小動物めいて見えないこともない。
ここに鶸茶をみちびいたそもそものエントランス同様、おそろしくもがらんとして飾り気のない室内だった。
どこもかしこも苦痛の鉛色で取り沙汰されている。
ランプの灯りはすっかりしぼられていたが、これがいやというほど豪勢に灯芯を消費されようが、しかしさほどに代わり映えはしなかったかもしれない。
ちいさな主人が横臥するにはいかにも広すぎる天蓋つきの四柱式寝台だった。
壁際にすえられたどしりと重量のある寝具は、この家が主の揺籃としてその役目をつつがなく果す。
うち捨てられたように深深とした眠りを眠っている、男のいったとおりの少女が無力なすがたでひっそりと沈みこんでいた。


二藍、と口のなかでぽつんと呼びかけた。
これほどまぢかに彼女を見たのはこれがはじめてのことだった。
ごつごつした指で敷布のうえにばらばらちらばるくせ毛にひとすじふれ、ゆるやかな呼吸をくりかえすあどけない唇にそっとふれた。
ほそい頤にふれ、喉にふれた。
ちゃんと息を繋いでいるじゃないか。
二藍。二藍!
あんたはちゃんと生きている。
こうして生きておれの目のまえにいるだろう。
頭蓋のうちのみでびんびんと割れてひびいていたはずの胴間声をその耳翼に留めでもしたものか、少女のうすい瞼が予告もなしにぱちりとあがった。
鶸茶、と彼女の口が名を供する。


二藍を遠目からはじめて目にしたのは、鶸茶が家につれてこられてすぐのことだった。
父母とも物心ついてからいくらもたたぬうちに亡くしていたので、伯父によってこの家に放りこまれることに鶸茶は否応もなかった。
然り、いちばんみぢかだった血縁がもはやなにをおいても取り戻しのきかぬものたちとなったことは幼いながらもしらじらとした心持ちで承知していたから、見知らぬ人間たちのなかに放りだされることに不安をいだきはしても、それ以上に住む家が見つかったことにたいしこっそりと安堵の息をもらしてもいた。
いずれ犬儒的なこどもだったのだろう。
しかしやはり欠けるものはある。必ずある。
そのまま鶸茶が二藍も、またほかのだれをも愛さずにいたなら、この男はいったいどれほど死んだように生きのびざるを得なかっただろう。
どれほど醜くねじ曲がってしまっただろう。
傲岸不遜といわれようが痴れ者と嘲られようが求めるものを一筋たりとも見いだせなかったら、おそらくひとの形をしたなりの、人間でないいきものへとかれはじわじわ擦り寄らざるを得なかっただろう。
経験もすくない10のこどもだった鶸茶にとって、二百数余年生きた二藍の鉄黒の両眼はいかさま奇異に映った。
外貌はいとけなくも愛らしい少女のそれでいながら、瞳だけが大人というも愚かしい明滅をくりかえす孤老の尤物だった。
いったいどんな声並で話すのだろうと心底不思議だった。


(あの子)李のしたにたたずむ少女を目で追いながら鶸茶は伯父をつかまえ、
(あの子、だれ?)
(二藍)甥の質問にみじかく返答する、(竜の子供だ)
竜、と鶸茶は眉をひそめ、(そんなものがまだいたのか)
いたんだよと伯父の笑う、
(おまえが死んだのちも数百年生きのびる。
わたしたちの何倍も長く生きる。気の遠くなるほど長らえる)
人間にしか見えないと鶸茶はくちびるをとがらせ、(化身なのか?)
いや、あの子には、と一段と伯父は声をひそめ、
(よほど多くの人間の血が入り混じっているもので、姿形といってはもう我々と変わるところがない。
わたしたちとはくらべものならぬほど長命だが、もうずっと可愛らしいあの姿のままだ)
死なないのならよかった、と鶸茶はひとりごちたものだった。

(「森 16」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-06 | comments(-) | TOP↑

≫ EDIT

森 14(スレートグレイ 10)

「森」1へ
「スレートグレイ・シリーズ」第一話へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/概要篇へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/キャラクタ篇へ

--------------------------

二藍の家を襲撃した尋常ならざるこの霧は、とるにたりない自然現象だとこともなくかたづけるには、ではいささか脳天気にすぎたのかといまさらのように考えおよんだ。
長くまっすぐにつづく渡殿のほぼ中央にふたりは対峙していたが、見るがいい、異質たる黒の男の、このもうもうたる煙霧をいかに眷属めいて麾下とし随従させていたものか。
この男は、なんだ、いったい真正の人間ではないのかと怖いもの知らずの鶸茶の脳裏にやっと畏怖の念がじわりときざしはじめた。
やはり男は読心する。
ふたたびツと腕をあげたがそれは宝石で装飾されていないほうの腕だった。
さわるなととげとげしく吐いて身をひこうとしたが、頬にヒヤリ乾いた感触をうけたのだから、からだは要するにみじんも主のいうことをきかなかったのだろう。
影をしたがえ、なおみずからが影のようであった痩せた男は、風を配下とするぞっとしない声柄をもち、あたかも喃語めいてささやきかける。


「おまえのだいじな二藍はその扉のむこうにいる。
鶸茶、おまえが10のときからやまず求めてきた人間だ、いって抱くといい。
二藍は二百数余年生きた。
じつに短い生だといわざるをえないが、ひとの血が色濃く混じり合っているとなればもはやここが限界だろう。
これからさき二藍には四つめの季節は存在しない。季節は巡らない。
その最後の夏を迎えるまえにある術者によって墓穴に放りこまれることになるから。
たとえおまえが、鶸茶、いいか、骸であってもかまわぬから二藍を自分のものにしたいと渇望してももう無理な話なんだよ。
術者によって与えられた力は施した当人にしか解くことができない。
おまえたちにはいっさいなにも出来得ずに終わる」
二藍がなんといった、と頬に嘔気のくる掌を感じながら低声で、
「二藍がなんだと……おまえは」
「二藍は死ぬといったんだよ、鶸茶」
「出放題をいうな」
「死ぬんだ」淡々と男はくり返した、
「わたしにはおよそ儚い生でしかないが、おまえたちにとってみればそれでもよほど延命したんだろうが」


死ぬ、と鶸茶は無表情にことばをなぞる。
「死ぬんだよ」いって、男の顔がふかぶかと降りてきたために、その暗く灼けつくような影を鶸茶はしたたか舐めさせられるはめになった。
死ぬのか、と舌にのせようとした不吉にしてからからに乾いた一語は、飛び出すまえにもう男にぴちりと吸いとられてしまっていた。
食い込み交叉した口を基点として満腔にはりめぐらされている筋という筋が、がんがんと耳を聾し警鐘を打ち鳴らしはじめる。
うるさい、黙れ、このおれの鼓膜をやぶるつもりかと拘束されたままで詮ない抵抗を鶸茶はあがきつづける。
しこうして抵抗にもなにもなっていない。
からだのなかに鈴をつけられ、思うさま揺さぶりをかけられているようだった。
放せともやめてくれとも訴えたはずだが、愚かしいことばどもは相も変わらずぬるぬるする粘膜のうえにしっかとしがみついたまま、いっこう外部へ放たれてゆこうとしない。


二藍を抱かないのか、と娟容の男が耳語する。
「抱く」と崩れ落ちそうになりながらひとこと鶸茶はいらえを返した。
鶸茶にふれていなかったほうの紅玉を嵌めた掌が翻り、軌条をえがいてごく短く霧をなぎはらう真似をする。
その原石の赤に助けられ、ようよう鶸茶は束縛から逃れることに成功した。
またも体内で鈴が揺れたようだ。からだが振りまわされた。
がくりと膝をつくところを慣性のままにぶんとながい腕を一閃させたつもりだったが、そんなでたらめな攻撃ならとうてい功を奏するものでない。
身をひきざま、背のたかい男はとんと軽く鶸茶の上体をついて背後の扉に放り投げた。
鶸茶のからだの重みを受け扉がかしぐ。
まろび入室したさきはさらにも陰鬱な矩形の空間だった。

(「森 15」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-05 | comments(-) | TOP↑

≫ EDIT

サイアート(銅貨)さんから絵描きさん&字書きさんバトンをいただきました

サイアート(銅貨)さんから以下のようなバトンをいただきました。
そんなわけで「森」は1回だけお休みします〜
あしたは必ず更新しますのでどうぞよろしく。
-------------------------------

〈絵描きさん&字書きさんバトン〉

【1】いつもどうやってアイデアを出してますか?
魔法陣を描いてアレを喚びます。それでぬかりなく知恵を授けてもらいます。
というのは嘘で、仕事中にもくもく湧くのです(仕事しろ)。

【2】アイデアが出やすい場所は? オススメがあったら教えてください
仕事机(仕事しろ)。

【3】作品を仕上げるのにどのくらいかかりますか?
どなたでもそうかと思いますが、ささっと書けちゃうときと何日もかかるときとあります。
いま更新中の「森」はことに苦労してます。

【4】今までで一番嬉しかった感想は?
いただく感想はどれもみなうれしくてしょうがないですが、やはりいちばん初めに小説にたいしてコメントがついたのを見たときはひじょうに感慨深かったです。
「うわー!」って何度も声に出したと思います。

【5】尊敬する人は?
・公平さを忘れない人。
・情けを知っている人。
・忸怩さのなんたるかを知っている人。

【6】目標とかありますか?
「あなたのようなものを書きたくて小説を始めました」とある日とつぜん見知らぬ人から告げられること(笑)。

【7】今書きたいジャンルは?
いま書いているもの。ようするにBLファンタジー。

【8】回してくれた人の作品どう思う?
サイアート(銅貨)さんですね。
一人称がとてもお上手だなあと……
一人称というのは一見かんたんでだれにでも手を出しやすい書き方のようでいて、じつをいってむずかしいものです。
おそろしい陥穽があるのですあれは。

【9】お疲れ様でした!
ありがとうございます。
こちらは日々お疲れの社会人ですが、このバトンを作成されたかたはどんな人かしら。

【10】最後に回したい絵描き&字書きさんをどうぞ
このバトンをお目にされたかたで、もし余裕があるようでしたらぜひお持ち帰り下さい。 

| バトン | 2009-11-04 | comments(-) | TOP↑

≫ EDIT

森 13(スレートグレイ 10)

「森」1へ
「スレートグレイ・シリーズ」第一話へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/概要篇へ
スレートグレイ・シリーズ設定集/キャラクタ篇へ

--------------------------

二藍のことについては鶸茶はだれとも……もっとも彼女にたいする思いを承知しているものなどせいぜいが同僚の黄丹ぐらいだったが……論議をしようとは思わなかったし注進に耳を傾けるなど論外だった。
彼女のことについてはいっさいの差し出口も譴責もおためごかしもごめんだった。
自分ではいっこうにそのつもりはなかったが、二藍のことに一言でもふれられるたびにどうにもはなはだしくも憚られるような険相をこしらえているらしいと、相対する黄丹の剣呑そうなおももちを見てようやく覚った。
なんでそんな顔をするんだといちど黄丹に食ってかかったら、逆に心底呆れた顔様をむけられた。
自分がいまどんなおもてをぶら下げているのかおまえはまったくわかっていないのか?
どんな顔とはなんだと重ねて狼よろしく牙をむいたら、おだやかな嘆息とともにもういいとちいさく肩をすくめられついぞ終いになった。
おれがどんな顔をしているかどんな色合いをたたえた両眼を眼窩に埋めこんでいるかなど知ったことか、そんなことは庭先にいやというほど連なっているあの李の木にでもむかってわめいてくれ、どうぞしてかまってくれるなと思った。
自分を莫迦者あつかいされるのをだれが歓迎するだろう。


それをこの規格外にも野放図にも大柄でうえからしたまで墨で塗りこめたような異質の男は、なんといった。
二藍がどうだと?「どういう意味だ」
この正体のしれぬ男がなにものか熟考するまえに、もう、ぎすぎすとがった耳障りな声がかわいた口をついて飛び出しはしたのだが、彼我の身長差がためにやや下から睨めつけるかたちにならざるをえなかったのは残念だった。
「いったとおりの意味だよ。おまえは二藍を知らない」
「知らなかったらどうだってんだ。ああ? そういうおまえはぜんたいどこの何者だ」
背の高い男はくつくつ笑う。
二藍の、と一呼吸おいてあとをつなぐ、「情人といったらいいのか」
鶸茶の鈍色の両眼がじわりと不気味に濃度をました、「ごたくなら寝ていいな」
「その部屋に二藍がいる」すんなりとととのったきれいな指先をすっと翳す、男の髪をたばねているちいさな紅玉とそろいのごくちいさな宝石が、その指のひとつを飾っていることに鶸茶はあらためて気がついた。
紅玉はどれほどの光のなかにあっても、うちに含まれる微量のクロムによって反応をひきおこし、みずからが赤く光をはなつ鉱物だった。
長い髪も闇色ならまとっている絹(ずいぶんと古めかしく映る)もしきつめた紫紺であれば、せめて宝飾たる石ぐらいはと慮ったものかとどこか麻痺した頭でのんきなことを考える。
まるで鶸茶の胸底を読んだようにちくりと男が眉宇をつりあげた、


「おお、これはずいぶんと古い貰い物でね。
どうしてもはずすわけにはいかないんだよ」
「指ごと切り落としちまえ」
くだんの紅玉に装飾されたながい指を鶸茶の頬によせ、ふれずにねっとりとそれを愛撫する。
「どうにも莫迦な男で可愛いよ、おまえは。
それでこそ二藍を愛するものというべきだろう。
二藍は、そこにいるよ。寝台のうえで力をうしなって休んでいる。
ついいましがたまで、わたしがさんざんに手をつくして愛してやったから」
歌うようにいった男のことばに鶸茶の目が昏くまたたく。
瞼がちぎれるかと思った。
愛した、と鶸茶は地をはうような声柄で、「愛した?」
いっただろう? とつぶやいて男はぐいと鶸茶のまぢかにととのった容をよせ、
「わたしは二藍の情人だといっただろう?
二藍がほんの100年も生きていないまだおさないこどものうちから、わたしは彼女を抱いてきたのでね。
もはや自分の一部に近いような気がするな。
おまえは、二藍を知らない。
どころか、二藍もおまえのことをろくに知らずにいる。
それでいながらおまえが二藍のことをかくも知悉しているのが、わたしにはつくづく面白くてしかたがないんだ。
興味深い。気に入った。
わたしの呼び声は聞こえたか、鶸茶。ちゃんと届いた?」


届いたとぶすりと鶸茶は返す。だからこそここまできたのだ。
「二藍はその部屋にいる」男はくりかえした、
「いまいましい術者に岩に封じこめられるまえに二藍を愛したいだろう?」
なんのことをいっているのか鶸茶にはまるで通じない。
しかしそれももっともなことで、〈二藍を岩に封じこめた術者〉といやというほど角突き合わせ、ともに森を彷徨するようになるのは、これから一年ちかくものちのことになるからだった。

(「森 14」につづく)

| スレートグレイ・シリーズ | 2009-11-03 | comments(-) | TOP↑

| PAGE-SELECT | NEXT