悩まない男

グレに惑わされる莫迦な男の鶸茶。でも可愛い(笑)

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名前 13

「い、つ……か……ら」
語尾がふるえ情けなく瞳がゆれた。
だめだ。
こんな顔をしていては、こんなふらふらしたたよりない声でこたえていては、この眼前の男になにもかもすべて見透かされ手もなくつかまってしまうにちがいないとぎゅっときつく目をつぶる。
かくしごとが下手なのはみずからよく承知していたからこそ、これまでは喧嘩すれすれのこんな小面憎い応酬にすらおおいに助けられちいさな逃げ場を確保できていたところがあったのだ。


真一との交わりはあれきりのもので、おそらく二度はない。
あのせつなくはげしい行為を、それはもういちど願わないではなかったのはたしかだ。
なによりこれほど敬慕する人間なのだ。
どうしてもういちど硬く締まったあの狂おしい熱でまさぐられたい、体内いっぱいにぎちぎちと骨が鳴るほど充たされたいと願わないわけがあるだろう。


肩をおとして対峙するすらりと背のたかい青年を省吾は寝台のすみに腰かけたまましずかにふりあおいでいる。


これ以上自分からことばをかさねられるのはさぞ苦痛にちがいなかろうとそのひきしまった日に灼けた頬を見やりながら慮るが、こうしてたのみもしないのにわざわざこちらの領域のなかへ無防備にも徒手のままひょいととびこんできた青年を、自分のちょっとした攻撃ともいえぬようなささやかなそれのにぶくひかる切っ先をほんのわずかばかりつきつけられただけでこうも素直に動揺する青年を、真一をいちずにこどものように愛し、いっぽうでこの自分のことを欲しいと明けても暮れても願っているくせにそれをうまうまと隠しおおせているだろうと考えている青年を、省吾は笑わずにはいられない。


笑い、そしていま自分の下腹部でじくりともどかしく熱を帯びつつある凝りを、ぬめりある塊を、このなじみぶかい焦燥感をどう処理したらいいかを、もちろん省吾はいわれなくとも知っている。


「そう。『いつから?』だよ。ほら優太、下をむいてないでちゃんとぼくの顔を見なきゃ。きみは、ほんとにおかしい子だ。そんな手管ともいえない手管でまるでぼくにはうまく隠しおおせてると思ってたのかな。自分でもかくしごとがうまくないって自覚してる時点でもうそのたくらみが失敗してるんだってことがわからないのか? いつからだって? もちろんきみが真ちゃんと寝てからだよ。そうだね、あれはきみの手がようやく治ってまた一人暮らしをはじめられるようになったところのことで、ぼくがあの男に刺されるちょっとまえだったかな?」


(「名前 14」につづく)

| 名前 | 2008-11-01 | comments(-) | TOP↑

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