10番目という月

赤毛喋りたおし(笑)

名前 14

「真一と寝た」こうもあからさまに口にされるにおよんで、眼前の男にたいしてふくれあがった理不尽な怒りがこれまでかかえていた羞恥をたちまちのうちに凌駕してしまった。
たしかに経験のまるですくないかれなど、あの行為はそのわずかのひとことで片付けられてしまうていどのものなのかもしれなかったが、わざわざ優太をつかまえていいたてる省吾のその意地の悪い露悪趣味がむしょうに腹立たしかった。


あれを、自分のなかでは重要な意味があったにもかかわらずうまく説明のできなかったあの行為を、かるがるしく俗にあつかわれたくなどはなかった。
いま眼前にいるこの人間がほかでもない自分が共寝したその男の恋人であるということなどかるく頭からふっとんでしまうほどにだ。


じつは優太こそが「寝取ったのか?」とこの美貌の男から難詰されてもまったくいいわけできない立場にいるのだと、そんなことにすら気づきもしないほどにだ。
恋人同士でつむぐような時間ではなかったしすくなくとも優太はそう考えていたのだが、それはやはり事のあとのいいわけにすぎないのだろう。


「あんたは意地が悪い」自分でつくったにもかかわらず奇妙なかたちに見えてしょうがない丸い拳をみおろしながら優太は口をきった。
「あんたは意地が悪いんだ。そんなこともぜんぶ気づいてて知らんぷりしておれを笑ってたんだ。なんであの真一さんみたいなやさしいひとの恋人があんたなのかぜんぜんわかんねえ。おれはあんたの玩具かよ。ただの時間つぶしの相手なのか? あんたがそんなよろよろのなかなか回復しないようななりだからこれでも遠慮してやってたのに! やっぱりあのまんまあっちの世界にいってりゃよかったんだあんたなんか」


「遠慮してた?」省吾は口をはさんだ。
「してたよ」
「意地が悪い?」
「底が抜けるほど意地が悪いだろ!」
「真ちゃんはやさしいって?」
「やさしい」思わずみじかくかえし、犬みたいに大きな茶色い瞳をそっとふせた。
「やさしい。真一さんはすごくやさしい。あんなにやさしいひと、ほかにはいない。いままでどこにもいなかった。あんなにやさしいひとはずっとどこにもいなかったんだ。だから……だからおれは……だからずっと……」


「泣かなくてもいいよ。ごめん優太。でもね、真ちゃんもぼくと張りあえるぐらいには意地が悪いよ。やさしいのは、優太にだからだよ。ぼくには鬼だよあの男は」
「泣いてねえよ! それに鬼ってなんだよ。へんなこというなよおっさん」
「おっさんじゃなくて省吾だ。それからねえ優太、きみには弱みがあるんだってことを忘れないほうがいいよ。優太、きみは真ちゃんと寝たんだよね?」


(「名前 15」につづく)


BL小説ブログランキング
(↑↑ランキングに参加中です。支持してくださるかたはクリックをお願いします)

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL

 | HOME | 

ランキングに参加中です

↑↑ブログ村のBL小説ブログランキングに参加しています。支持してくださるかたはクリックをお願いします。

FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

QRコード

QRコード

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Author:7月
夕方はきらい。悲しいから。