名前 15
「寝たとかいうな!」
目をつりあげてどなりちらす優太に、省吾は手にしていた専門書を寝台のわきによせあいた左手をのばして青年の腕をかるくつかんだ。
「だまって。ほら、きみはまた忘れてる。怒っていいのはきみじゃなくてぼくのほうなんだってば。優太、それじゃいったいなんていってほしいんだ? 真ちゃんときみはセックスしたって? したことはそれ以外のなにものでもないんだけどつまりもっとことばをかざってくれっていいたいのか。真ちゃんがきみにしたことはそんなことばで軽々しくくくられるようなものじゃないんだって、きみはそういいたいのか?」
「はなせよ、手」
「じゃ、ふたりで愛しあったんだとか、なにかそんなふうにいってほしいの?」
「はなせ」
「どうだった? 真ちゃんは」
「……」
「死ぬほどよくなかった? だいじょうぶだよ、ぼくはきみを非難してるわけじゃないから。それは、ぼくと真ちゃんとはもういやというほどセックスをくりかえした間柄なんだけど、ぼくも真ちゃんもどこか規範がゆるいんだ。ちょっとおかしいんじゃないかって思うくらいにね。きみたちふたりが寝たことをぼくに暴かれたって真ちゃんにとってなんでもないように、ぼくがいまきみと寝てもね……」
ちらと省吾はきれいな笑みをこぼした。
「きみとめちゃくちゃに溺れるようなセックスをしてもね、かれはたぶん怒らないから。ぼくがきみたちふたりが寝てるところを見てみたいって下半身がどうにかなりそうなくらいに願うみたいに、真ちゃんもぼくたちふたりが寝てるところを見てみたいとつよく思うんだろう。だからそういう意味での心配はまるで無用なんだ……ああ、ほら、だからそんなに傷ついた顔をしなくてもいいっていうのに。たとえ真ちゃんがぼくたちふたりのセックスを見たがってるといったって、それできみを好きじゃないということにはまったくならないんだよ。あの男はきみのことをもうすごく好きだから。それは、きみがかれに抱かれたときにほんとによく実感できたことじゃない?」
はなせ、ともう優太は朽ちかけたことばをくちびるにのせることはしなかった。
かすかに口はひらかれていたのにことばがそとに出ていかなかったのだからもういいと思った。
ほんのわずかのちからでささえられているはずの省吾のほそい指先がどうにも重くてふりはらえなかった。
いまも、これまでも、これからも。
どうしてもふりはらえない。
これまでずっとそうだった。
真一だけをもとめていればよかったのにどうしてそうできないのか不思議だった。
そもそも自分がかれらのどちらにも嫉妬をいだいていないらしいのがいぶかしかった。
かれらのどちらをも自分はおそらく欲している。
なのにたった一度だけ漏れ聞いた、このふたりのはげしく愛しあう情景を脳裏にえがいてはマスターベーションをくりかえしている。
その情景を見たいと思う。
けして離れないでいてくれる。
それは、愛、でなくてもいい。もういいのだ。
いつまでもずっといっしょにいてくれるものをそばで見ていたかった。
(「名前 16」につづく)
目をつりあげてどなりちらす優太に、省吾は手にしていた専門書を寝台のわきによせあいた左手をのばして青年の腕をかるくつかんだ。
「だまって。ほら、きみはまた忘れてる。怒っていいのはきみじゃなくてぼくのほうなんだってば。優太、それじゃいったいなんていってほしいんだ? 真ちゃんときみはセックスしたって? したことはそれ以外のなにものでもないんだけどつまりもっとことばをかざってくれっていいたいのか。真ちゃんがきみにしたことはそんなことばで軽々しくくくられるようなものじゃないんだって、きみはそういいたいのか?」
「はなせよ、手」
「じゃ、ふたりで愛しあったんだとか、なにかそんなふうにいってほしいの?」
「はなせ」
「どうだった? 真ちゃんは」
「……」
「死ぬほどよくなかった? だいじょうぶだよ、ぼくはきみを非難してるわけじゃないから。それは、ぼくと真ちゃんとはもういやというほどセックスをくりかえした間柄なんだけど、ぼくも真ちゃんもどこか規範がゆるいんだ。ちょっとおかしいんじゃないかって思うくらいにね。きみたちふたりが寝たことをぼくに暴かれたって真ちゃんにとってなんでもないように、ぼくがいまきみと寝てもね……」
ちらと省吾はきれいな笑みをこぼした。
「きみとめちゃくちゃに溺れるようなセックスをしてもね、かれはたぶん怒らないから。ぼくがきみたちふたりが寝てるところを見てみたいって下半身がどうにかなりそうなくらいに願うみたいに、真ちゃんもぼくたちふたりが寝てるところを見てみたいとつよく思うんだろう。だからそういう意味での心配はまるで無用なんだ……ああ、ほら、だからそんなに傷ついた顔をしなくてもいいっていうのに。たとえ真ちゃんがぼくたちふたりのセックスを見たがってるといったって、それできみを好きじゃないということにはまったくならないんだよ。あの男はきみのことをもうすごく好きだから。それは、きみがかれに抱かれたときにほんとによく実感できたことじゃない?」
はなせ、ともう優太は朽ちかけたことばをくちびるにのせることはしなかった。
かすかに口はひらかれていたのにことばがそとに出ていかなかったのだからもういいと思った。
ほんのわずかのちからでささえられているはずの省吾のほそい指先がどうにも重くてふりはらえなかった。
いまも、これまでも、これからも。
どうしてもふりはらえない。
これまでずっとそうだった。
真一だけをもとめていればよかったのにどうしてそうできないのか不思議だった。
そもそも自分がかれらのどちらにも嫉妬をいだいていないらしいのがいぶかしかった。
かれらのどちらをも自分はおそらく欲している。
なのにたった一度だけ漏れ聞いた、このふたりのはげしく愛しあう情景を脳裏にえがいてはマスターベーションをくりかえしている。
その情景を見たいと思う。
けして離れないでいてくれる。
それは、愛、でなくてもいい。もういいのだ。
いつまでもずっといっしょにいてくれるものをそばで見ていたかった。
(「名前 16」につづく)
| …名前 | 2008-11-03 | comments(-) | TOP↑